本事業では、特に広大な過疎・中山間地域においてプログラミング教育を継続して実施運営できる地域 ICT クラブの組織運営の実証をおこない、日本全国の随所にある同様の地域が抱える課題解決型事業とな り、他の地域に広く普及展開することを目指します。
本実証は、以下の 6 つの課題に対応した実施概要となります。
過疎・中山間地域では、児童生徒、メンター及びサポーターの居住地域と、民間教育施設とが遠距離で あるという距離の障壁があります。それを乗り超えるために、既存の通信インフラを積極的に活用する地 域 ICT クラブの組織化を進めます。また、インターネット及び ICT 及び IoT の技術を組み込んだ教材を積極的に活用することにより、市街地域と過疎地域とで格差なく講座を受講できる機会を保障します。
具体的な方法としてテレビ Web 会議システムを活用したプログラミング教育講座を運営する仕組みを実 証します。大画面に映像を映し出して行われるテレビ会議を活用した講座は、光インターネットにより双 方向での同時コミュニケーションが可能になり、センターからメンターが講義する講座を、遠隔で別の受 講会場に対して配信し、同じ教室で一緒に学習をしているような状況で講座を実施することが可能になり ます。よって、どの地域でも公平に義務教育を受けることができる現状の環境と同様に、本事業では児童生徒が地域 ICT クラブに公平に参加できる仕組みと体制を実証します。
a)郡上市教育委員会及び郡上市が市内の公民館、図書館、コミュニティセンター等の会場を提供します。 具体的には、ブロードバンド接続が可能な通信設備が整備済みである施設を児童生徒が講座を受講する会 場とします。よって新たに購入が必要なパソコンや周辺機器及び通信機器を最小限に抑えることが可能に なります。
b)テレビ会議システムで接続した会場では既存のテレビ Web 会議システムを活用して他拠点の映像と音 声をリアルタイムかつ双方向で通信を行います。
c)講座を発信するセンター拠点として、光インターネットを使用できる設備を持つテレワーク拠点(総 務省平成 28 年度ふるさとテレワーク推進事業で整備済み)を活用します。当拠点に整備済みのテレビ Web 会議システムとグループウェア、クラウド上の共有データ領域等を活用し、精度の高い講座を実施します。
d)上記 a)b)c)により各地域の人的資源、設備の共有が可能になり、遠距離という物理的ハンディを乗り越えて組織の運営および講座の運営、人材の育成が円滑になる仕組みにつながります。
e)また、日常的な講座準備、メンターおよびサポーター間のコミュニケーション、情報共有、組織運営 にもテレビ Web 会議システムとクラウドを活用できるので、各地域の人材と公共施設が地域 ICT クラブで 活用することができるようになり組織の持続性が保障されます。
f)さらに、開設する講座で使用する教材は、クラウド型の教材を効果的に活用します。クラウド型の教 材の利点である情報共有の即時性と同期性を確保して都市部との教育格差及び地域間の格差が生まれにく い講座運営を実証します。
地域 ICT クラブは、既存のスポーツ少年団(ジュニアクラブ)のように、地域全体の支援を受けて、地 域が自立して児童生徒の学習機会を持続的に提供できる組織となることを目指します。今回の実証では、 代表団体である特定非営利活動法人HUBGUJOが中心となり、各構成団体は連携して事業を進めます。 各団体は以下の役割を担います。
a)当実証事業の特徴は、地域の教育機関の中心である教育委員会が協議会の構成団体であるので、地域 の公民館、図書館、各コミュニティセンター等の公共施設および人的資源等の公共資源を効率的かつ円滑 に使用できます。それにより持続的な会場の確保が保障されます。
b)教育委員会および学校教育と連携して活動している PTA 連合、文化協会と協調して事業を推進します。 各学校の PTA と文化協会の協力により児童生徒とその保護者、多世代にわたる地域住民が継続して地域 ICT クラブに関心を持って持続的に支援を行います。
c)市内の全小中学校(29 校)及び高校(2 校)が地域 ICT クラブの広報、メンター、サポーター、参加 希望の児童生徒等の募集、学校との情報共有を円滑に支援できることを実証します。
d)地方公共団体である郡上市においては当実証の成果を踏まえ、地域 ICT クラブの持続的な運営を支援 する政策的支援を計画します。
e)すでに当地域で 2 年間にわたりプログラミング教育事業を実施している実績とノウハウを生かして、 地域の NPO 法人および民間教育団体が積極的に事業運営に関わり、メンターの確保、人材育成、教材の調 達、教材の品質確保、ICT 技術情報の提供等の連携を実証します。
f)学術研究機関である大学研究室からは、地域マネジメントの学術研究成果のノウハウの支援、大学生 及び大学院生によるメンター及びサポーターとしての参加を促進します。
g)一昨年からボランティアでロボット工作プログラミング講座及びドローンパイロット講座等を実施し た経験のある民間団体が、すでに今年度もプログラミング体験講座を開催しています。そのイベントに参 加したプログラミング学習に意欲のある市内の児童生徒が現在約 30 名以上あり、今年度の当実証事業への 参加を見込んでいます。また、2 年間の受講経験のある高い技術を修得済みの生徒を対象にTOP人材育 成講座の実証が可能です。
過疎・中山間地域において課題となっている少子高齢化による深刻な人材不足の状況下でも持続的なメンター及びサポーター人材の確保を実証します。
当実証事業が完了した後に、当実証を礎として当地域から輩出した IoT 及び ICT 人材が、将来に都市部 から U ターンし、過疎・中山間地域の持続的な発展に寄与することを可能にする仕組みを産官学が連携し て取り組みます。
a)親子(または祖父母と孫)が多世代で関心を持てる地域に密着した講座のテーマ(課題解決型学習 テーマ)を設定して、参加児童生徒だけでなく様々な地域人材に対してメンター、サポーター候補 のすそ野を広げる実証を行います。
b)郡上市の秘書広報課、PTA、各小中学校と連携して、市内ケーブルテレビ、市が発行する月刊広報誌、 ホームページ、月一回の市内全世帯への回覧板、学校経由で児童生徒へのチラシ配布等の広報活動 を推進し、地域 ICT クラブという新しい教育活動の仕組みの認知形成と啓発活動を促進します。
c)各学校の PTA と協調して児童生徒の保護者が継続してメンター及びサポーター人材候補となる連携 方法を実証します。
d) 総務省平成 28 年度ふるさとテレワーク推進事業で整備したテレワーク拠点に進出した都市部のサテライトオフィス企業、または移住した ICT 技術者、起業した UI ターン事業者と連携し、メンターま たはサポーターの人材候補としての参加を促進します。(※現在の候補事業者数は約 20 以上)
a)テレビWeb会議システムを活用したオンライン講座では、講座の講師であるメンターは、主となる 発信側であるセンター拠点で講義を行い、カメラで撮影した映像と音声をインターネット経由で発 信します。遠隔で接続した受講会場では、プログラミング講座に参加する児童生徒がインターネッ ト経由で受信した映像と音声を、テレビ Web 会議システムを介して見聞きしながら TOP 人材育成講 座を受講します。
b)講座は課題を児童生徒に与えながらアクティブラーニングを進めます。受講する児童生徒は自主的 に、あるいは同教室の児童生徒と相談しながら、課題解決をしながら学習します。児童生徒は発信 側も受信側も双方のテレビ Web 会議システムから質問や発表を発信することが可能です。このよう にオンライン講座は発信側と受信側が自由に入れ替わりながら双方向のコミュニケ―ションをおこ ないます。さらに円滑に学習を進めるために、各会場にはサポーター及びメンターを配置して児童 生徒の学習が深度を持って進められるように支援します。プログラミング教材のひとつに、マサチ ューセッツ大学が開発した無償のプログラミング開発環境 Scratch をクラウドで活用します。 Scratch は、作成したプログラムを即時にパソコン上で試験動作を確認することができる統合環境 機能があり、アクティブラーニングを簡単に行えます。よって、児童生徒自らの力で、あるいは仲 間と相談しながら学習を進めることも可能です。
c)もうひとつの教材であるロボット工作プログラミングでも同様に、課題解決型の学習方式を採用し てアクティブラーニングを推し進めます。参加した児童生徒は課題を解決する方式でロボットの動 作をプログラミングします。ロボットは児童生徒が作成したプログラミング通りに従順に動作しま す。よって、常に課題解決の回答を児童生徒自ら必要なタイミングで繰り返し実証することが可能 です。教材が、アクティブラーニングを促す機能を保持していることを十分に活用しながら講座を 進めます。
d)教材には『ふるさと教育』を進める手法を取り入れます。地域資源の活用、または地域課題を解決 するテーマを設定して、児童生徒が自発的に取り組む課題解決型学習(PBL)の方法で、プログミラミングを活用して進めます。サポーターに大学、PTA 連合、文化協会等の多世代にわたる地域人材 を活用して、地域のすばらしさを感じながら楽しく課題を解決する教材を開発します。
e)『TOP人材育成』について。郡上市では一昨年より2年間にわたって、NPO法人HUBGUJOと郡上市教 育委員会、及び、民間企業との連携により、ロボットやドローンを使用したプログラミング講座を 地域に於いて約 50 回程度開催してきました。その間に、のべ約 1000 人の小中高生がプログラミン グ講座を受講してきました。そして、2 年間の短期間で高度なプログラミング技術を修得した児童 生徒が育ちました。2019 年 4 月にはロボット工作プログラミングの岐阜県代表として、郡上市から 中高生 3 チーム(6 人)が選抜されて全国大会に出場しました。そして出場 64 チームの中で、10 位、 18 位、57 位と好成績を残しました。よって、更なるステップアップの場としての『TOP 人材育成』 を企画して、地域課題を解決して地場産業の後継者を育成する地域 ICT クラブの実証が可能になっ ています。
f)また、郡上市の全小学校では2019年度の総合的学習の時間を活用して6年生全員がプログラミング 体験講座を 3 時間受講します。よって当地域ではさらに学習意欲の高い児童生徒が増加することが 期待されています。
IoT 社会の促進は日本の成長戦略であり世界的な動向でもありながら、当過疎・中山間地域では IoT 技 術に日常的に触れることのできる環境は都市部と比較できないほど存在せず、IoT を学ぶ機会に恵まれて いません。そこで本事業では IoT 技術を体験しながらプログラミングを学べることができる教材を選定し ます。
a) IoT センサーの部品を使用しプログラミングでセンサーに対応した制御を学べるロボットやドローン を活用した教材を使用します。これにより将来の IoT 時代において地域を支える ICT 人材を育成する仕組 みづくりを実証します。
b)さらに意欲を持って学習できる環境の提供を目的として、学習の目標となるイベントを用意します。 講座を受講した児童生徒等は地区大会から県大会、そして全国大会、さらに世界大会まで続くプログラミ ングの大会(ロボカップジャパンジュニア大会)に参加し、国内の他地域の児童生徒、海外の児童生徒と 交流することを目標にします。そのために実証後に地域でその予選大会となる地区大会に参加します。大 会以外にも、児童生徒には都市部などの他地域で開催される交流会や競技会に関する情報提供を行い、参 加を促します。自分たちよりも学習の進んだ子どもたちと交流することを通して、新しい学びや発見を繰 り返し、児童生徒の学習意欲を高めます。
a)当実証事業で実施する「メンター及びサポーターを育成する講座」、「テレビ Web 会議システムを活用 して実施する PBL 型プログラミング講座」等を録画し、その効果と目的を訴求する広報資料化した映像を 地域の公共施設やホームページ、SNS 等で閲覧可能にします。
b)地域の報道機関に随時情報発信して、テレビ、新聞、地域コミュニティ誌等で情報発信を依頼します。
c)郡上市の秘書広報課、PTA、各小中学校、公民館、文化協会と連携して、市内ケーブルテレビ、市が発 行する月刊広報誌、ホームページ、市内全世帯への回覧板、学校経由で児童生徒へのチラシ配布等の広報 活動を推進し、地域 ICT クラブという新しい教育活動の意義と地域社会とのかかわりを広報します。