岐阜県郡上市は都市経済圏から離れた位置にあり、その面積は東京都23区の約2倍、大阪府の約2分の 1、南北に約 60km、東西に約 40 kmと広大であり、低地と高地の標高差が 1700m あり温暖の差が激しい地域 です。
一方、面積の 90%は森林、人口は約 4 万 1 千人、市を構成する 7 地域のうち 2 地域の過疎地域を含む中 山間地域です。
児童生徒数は市内全体で各学年 300 人余りであり、居住地域は河川の谷合いに離れて散在し、小学校の すべてが小規模校です。かつ、うち 2 校は全校生徒数が 10 人に満たない極小規模校です。それに伴って小 学校 21 校、中学校 8 校、高校 2 校が市域内全体に点在し、学校間の距離は最大で約 55Km と遠方です。
また、私塾は八幡町の市街地に数社の事業者が運営していますが、大半の児童生徒の住居から通塾が困 難な遠距離であり、学習意欲の高い児童生徒のニーズにこたえられる民間教育機関は充分にありません。 以上の地域特有の課題解決には、テレビ会議システム等の ICT を活用した遠隔教育の学びの場と支援体制の整備が必要と考えられます。
光インターネットによる通信インフラについては、八幡町と白鳥町、大和町の3つの地域のごく一部で しか利用できず、郡上市のほぼ全域においてインターネットの通信スペックは都市部に比べて大きく劣り、 大半の児童生徒の居住地域では光インターネットクラスの相互通信ができません。一方で、光インターネ ットが標準となった都市部と同等の通信環境と教育環境が整備された拠点は、各地域の学校のパソコン教 室、地域振興事務所、一部の公民館など限定的です。
さらに、急激な少子高齢化と人口減少(H27 国調時は減少率 5%以上)に伴い、人材不足が進み地域経済 は縮小しています。市内に ICT 関連事業者は数社しかなく、プログラミング教育を支えるメンターとなり うる地域人材は片手で数える人数しかいません。今後、都市部においては ICT 関連企業をリタイアする ICT の経験者が輩出されてメンター候補が増加すると期待されているようですが、私たちの様な過疎・中山間 地域ではそれは全く期待できません。
このような状況下では、IoT 化が進んだ将来において地域を支える人材が絶望的に不足すると予想され ます。
郡上市の ICT 活用に関わる教育方針と主たる実施事業については、以下がその詳細となります。
上記に挙げたように「自立・共生・創拓の教育」という郡上市の教育方針のもと、郡上市教育委員会が これまで継続して ICT を活用した教育の品質の向上を推進または支援してきた実績とその目的に本事業は 合致しています。また、上記のように郡上市は従来から教育分野において ICT 活用を推進しています。本 事業においては、テレビ Web 会議システムを利用し、市内に点在している拠点間で遠隔授業によるアクティブラーニングを相互的に行います。
本事業では、上記にあげた過疎・中山間地域の現状の課題に対応して、特に 2020 年から始まる義務教育 でのプログラミング教育必修化により増加が見込まれるプログラミング学習へ学習意欲のある児童生徒の 向学心に応えられる地域コミュニティの組織化と、地域 ICT クラブに参加する児童生徒の指導者及び支援 者、かつ組織運営者となるメンター及びサポーター人材を地域において持続的に育成する仕組みと、プロ グラミング教育の機会を児童生徒に公平に提供できる実践を実証します。
地域特性を考慮して、少子高齢化が進む逆境のもとで、限られた人材を効率的に育成するために、既存 の教育関連従事者と強固に連携する仕組みを検討します。それはプログラミング教育必修化の準備を進め る学校教育を支援する効果を生み、学校教育資源がより社会教育の資源と連携する循環を生む土壌を形成 します。学校教育と地域 ICT クラブが連携して、地域の児童生徒等のプログラミング教育の機会をより安 定的に提供できる地域づくりが可能になると考えます。
本事業の特徴として、課題解決型学習(Project Based Learning、以下「PBL」と記)の手法を活用して、 メンター及びサポーター、受講する児童生徒が、一緒に楽しみながら、かつ、町を活性化するやりがいを 持ちながら学びを進めていきます。
児童生徒の個々の可能性に全方位で挑戦できる学びの場となる PBL 型の学習の場は、地域資源と地域人 材を活用して地域課題を解決する『ふるさと教育』を教材に取り入れることが容易であり、地域 ICT クラ ブが輩出する人材が将来ふるさとに戻り、ふるさとの地域課題を解決するリーダーとなることにつながる ことが期待されます。
郡上市の小学校の授業では、昨年度に12の小学校でプログラム体験講座の実証が行われ、今年度は全 小学校の「総合的学習の時間」の 3 時間を使い実施されることが決定しています。また、来年度にはプロ グラミング教育が必須となります。この状況下で、今後、プログラミング教育により向学心と学習意欲を 持った児童生徒が現れます。それらのニーズに応え、本事業は、学校外の地域社会において「TOP 人材育 成」を実証します。このように学校教育と本事業が連結して将来の地域社会を担う人材育成のフローがで きあがります。これにより地域住民の強い共感を得られ、持続的な運営への支援が期待されます。